妄想と現実のはざま

私の黒歴史な日記置き場

古い記憶

幼稚園の頃のことだと思う。


マンションの窓を外側から叩いて、開けておくれと母が言う。
当時私の家族が住んでいたのは、高層ビルの20階である。窓の外に足場はない。
母は買い物帰りなのか、大きなビニール袋を腕に通し、両手で窓の桟につかまって、こっちを見ている。窓ははめ殺しで開けることはできない。
何故そんなに危ないことをしているのだと私は怒るが、母は笑ってとりあおうとしない。それどころか、じゃあやり直すよと言って視界から消えた。
窓に顔を近づけて覗き込むと、母がビルの壁面を伝って下りていくのが見えた。
やり直さなくていい、危ないのだ、と私は叫ぶ。


この記憶は夢に見たことなのだろうか。
そして、あれは母だったのだろうか。

村上春樹の小説の登場人物は、なぜ充実した性生活を送る必要があるのか


会社の先輩と、「1Q84」について話をした。


村上春樹の小説の登場人物って、なんで充実した性生活を送る必要があるんだろうな?」
「それについては、私に思うところがあるんですよ」
「ほう」
「それは彼の描く精神的苦悩が、少なくとも性的な充実で満足されるものではないということを示すためでないかと」
「なるほど。たしかに、ああいった設定がないと、登場人物に小難しい感じで悩まれても、すべて欲求不満が原因と片付けたくなるかもなあ」
「そうなんですよ。まあ、だからといって、本当にそれが性的な充実で満足されないような問題なのかどうかはわからないと思うんですけどね」


何物によっても解決しない、レベルの高い空虚さを描いてみせて、向き合う必要のない問題に直面させるショックを小説の売り物にするという手法があるとしたら、それは、世界の終末を描いて人々の不安を煽る宗教と同じようなやり方だというべきなのかもしれない。
自己実現論に毒されながら安易な回答も得られない時代にとっての究極の娯楽作品が、上記のような小説としての「1Q84」だと捉えてみると、なんだかやりきれない気持ちになる。

受けてこその日本


池袋に行ってきた妻が言うには、国擬人化コメディのブームに乗り、「祖国さん」こと日本の人気が全盛の昨今、乙女ロードで最もホットなテーマは「日本受」であるらしい。


「日本って受けなんだ?」
「日本は受けてこそでしょう!」
妻の言葉は、祖国への不思議な自信に満ちていた。


乙女たちにとって、日本の抱える外交問題なんてもはや妄想の源泉に過ぎないのかもしれない。
アニメの得意な麻生総理なら、北朝鮮問題や世界不況、新型インフルエンザだって
「受けてこその日本だ」
の一言で乗り切ってみるというのはどうだろうか?

メタボリックが止まらない


「メタボリック」。
太っているだけで人を病気扱いする恐ろしい単語なのに、言葉の響きがすばらしい。
ロマンチック」や「ドラマチック」を使った言葉を、「メタボリック」に置き換えるだけで、なんだか素敵な言霊を感じさせるフレーズになる。

  • メタボリック・ラブ
  • メタボリック街道
  • メタボリックに恋して
  • メタボリックあげるよ
  • メタボリック・レイン


「メタボリックが止まらない」というタイトルで歌をつくる方向で模索していたら、すでにC-C-Bの替え歌を誰かが作っていて、ニコニコ動画初音ミクが歌っているのを知ったよ。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm5222213

非オタクの男だってハマる乙女向けキャラソン入門


妻のiTunesが嫌いだった。
延々とアニメソング三昧。
無限にゲームソング地獄。
ジャズ好きを自称することに決めた私の、耽美な志向に反した音楽たち。


その中でも、一際のダメさを誇っているのが、「キャラソン」といわれるジャンルの曲だ。
キャラソンについては、「はてなキーワード」に端的な解説がある。
「キャラクターソングの略。漫画やアニメ、ゲームなどに登場する特定のキャラクターを具表した歌」
基本的には、そのキャラクターを演じる声優が歌う。また、必ずしも作品中で使用されるとは限らず、イメージソングのような位置づけになっている。」
すなわちキャラクター、あるいはそれを演じる声優にスポットを当てて作品を楽しむファン達、いわゆる「キャラ萌え」あるいは「声優萌え」な人に向けられたコアな音楽のことだ。
「アニメソング」というと、現在では旬なアーティストとのタイアップも多く、ヒットチャートに上るのも珍しいことではない。
それに対してキャラソンは、一般的には作中で使われることすらない。その用途は、「キャラクターソング集」などという割と熱心なファンが購入するCDへの収録であったり、ファン向けのライブイベントで歌われることである。
そんな、一般の人の耳に入ることを目的にしたものではないキャラソンにおいて、およそ高い音楽性を追求しようなどという態度は存在しない。
どこかで聞いたような曲に、痛い感じの歌詞をのせ、歌の下手な声優が歌う。例えばJポップを洋楽の焼き直しだというならば、キャラソンはJポップの粗悪な劣化コピーだ。
それが、私のキャラソンに対する評価だった。


しかし、数多のキャラソンを流しつづける妻のiTunesを聞くうちに、その中には私の心に響く楽曲があることに気づいた。
最初嫌悪していた音楽が、どうしようもなく耳に残り、頭の中で無限にリピートする。
やがて中毒となり、心が繰り返して聞くことを求め、ついに一緒になって歌い出す。


キャラソンの魅力とは何か。
先にキャラソンの特徴を「どこかで聞いたような曲に、痛い感じの歌詞をのせ、歌の下手な声優が歌う」と書いたが、それは大筋で間違いではない。中には歌が上手い人もいるが。
「どこかで聞いたような音楽」とは、時代に左右されない普遍性を持った音楽のパロディに徹する所以である。音楽で勝負していないからこその耳馴染みするメロディは、シンプルで力強い。それは、音楽的な流行や新奇な音楽性の追求という、現代性という名の呪縛に捕らわれざるを得ないヒットチャートの音楽達に比べて、時に魅力的である。妻が流行の歌よりもキャラソンに走るというのも、その意味で理解出来るような気がする。
「痛い感じの歌詞」を「下手な声優が歌う」のは、すべてキャラクターの魅力を具現化するためである。そのキャラをキャラたらしめんとする要素を、歌を使って行き過ぎた感じで表現するのがキャラソンである。そして、その行き過ぎた感じをネタとして楽しむことこそがキャラソンの魅力なのだ。
「それならば、そのキャラを知る熱心なファンしか楽しめないのではないか」と言われるかもしれないが、それは違う。キャラなんて、十分類型化されたものなので、例えば「眼鏡をかけた鬼畜なナルシスト」っていうだけで、なんだか十分に伝わり、楽しめるものだ。
最近の新書本で「キャラ化するニッポン」というのがあるが、キャラを楽しみ、自らキャラ化する現代日本人には、キャラソングを受け入れる土壌がある。そして、キャラソングをその作品のファン以外に解放することは、新たな娯楽の地平を切り開くことになるのだとは言い過ぎだろうか。


なんだか前置きが無駄に長くなった。もっともらしいことを言うのも限界な気がする。
以下に、私が認めざるをえなかった、きっとオタクでなくてもハマることができるキャラソンの名曲を記す。
妻の好みがベースなので、基本的に乙女達の向けて作られたキャラソン達である。

まっがーれ↓スペクタクル

D

「この動画をきっかけにキャラソンの道にはまった」と妻が語る運命の曲。
ライトノベルが原作で一世を風靡したアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」のキャラソン。
笑顔と爽やかな語り口が特徴で、「閉鎖空間」と呼ばれる異空間で世界の破滅と戦う超能力者「小泉一樹(こいずみかずき)」の曲を、小野大輔(通称「小野D」)が歌う。
男性向けアニメのファンイベントで、ダンサーを従えて登場した小野Dは、昭和を感じさせる鮮やかなダンスと、スプーン曲げによる圧倒的なパフォーマンスで閉鎖空間を体現。その映像は動画サイトで話題となり、数多の乙女達の心をわしづかみにした。
ある意味、彼が作った閉鎖空間から、妻はまだ帰って来ない。

〆切合体!GOレンジャー

D

ドラクエ風ファンタジー漫画を描くのを手伝うことで、登場人物との絆を深めていく恋愛アドベンチャーゲーム「星空のコミックガーデン」のキャラソン。
主人公がアシスタントをしている大手出版者の看板マンガ家「轟木 圭吾(とどろきけいご)」役の緑川光(通称「グリーンリバーライト」)と、冷静沈着なやり手編集者「神崎 小次郎(かんざきこじろう)」役の神谷浩(通称「ヒロC」)によるデュエット。
日本語に勢いのある歌詞と、キャラ声による掛け合いが、ノリのいいラテンのリズムに乗ってあやしげな魅力を放つ名曲。
「合体!」と声をあわせる二人に、乙女ならずとも胸キュンキュンしてしまう。


Guilty Beauty Love

上流階級の子息が集まる私立高校を舞台に、庶民の女の子が男の子に囲まれてちやほやされるという少女漫画王道の設定による「桜蘭高校ホスト部」がアニメ化された際のキャラソン。
ホスト部の部長でナルシストな「須王環(すおう たまき)」の曲を、宮野真守(通称「まも」)が歌う。
なんだかビジュアル系バンドのバラードっぽい曲にのせられる歌詞のすごい。
「罪は神が僕を美しく創ったこと
 君の瞳に映った僕がいけないのさ
 罰は僕が愛に満たされ過ぎてること
 それでも僕は君を愛してしまうだろう
 GUILTY BEAUTY LOVE」
商業ベースで許されるナルシストのリミットを軽く越えてくるあたりが、キャラソンのすばらしさだ。
キャラソンには珍しくカラオケに入っている。歌うと自己陶酔の世界に浸れて最高に気持ちいい。

おれはウサミミ仮面

サンリオのキャラクターを使ったアニメ『おねがいマイメロディ 〜くるくるシャッフル!〜』のキャラソン。
マイメロが「くるくるシャッフル」を使ったときにランダムで登場するお助けキャラ、ウサミミ仮面のテーマソングを置鮎龍太郎(通称「おっきー」)が歌う。
必殺技の名前を叫ぶなどのお約束を踏まえた典型的な戦隊ものテーマ曲風の熱い楽曲と、中途半端なキャラ造形が愛らしいウサミミ仮面とが絶妙にマッチした名曲。
ひどく耳に残るサビは、極めて高い中毒性があり、気がつくと口ずさんでしまう。
キャラソンではないけれど、エンディングテーマの「宇宙のフラメンコ」も名曲。http://www.youtube.com/watch?v=sSlhJRbPmpo
サンリオの日曜アニメを完全に見くびっていたよ。

青春ダイナマイト

D

新任女性教師が、落ちこぼれクラスの担任になり、美形だが超問題児の6人組を育成するという恋愛ゲーム「VitaminX」のキャラソン。
「クラッシャーキヨハル」の異名を持ち、悪質なイタズラを繰り返す問題児「仙道 清春(せんどう きよはる)」の曲を、吉野裕行(通称「よっちん」)が歌う。
「つっぱり」と「ぞっこん」でファンと掛け合う、まさかの80年代アイドルサウンド。動画のコメントにある通り、マッチとしか思えない。
見ているこっちが、たまらなく恥ずかしくて悶える。
同じくニコニコ動画に上がっているライブバージョンも必見。http://www.nicovideo.jp/watch/sm1366864

ミラクルフォーチュン

D

妻の最近の注目曲。
「占ったことが何でもホントになる」がコンセプトの恋愛シミュレーションゲーム「トゥルーフォーチュン」のキャラソン。
コンピュータ部に所属し、オタク道を追究する「野間卓人(のま たくと)」の曲を、谷山紀章(通称「きーやん」)が歌う。
NHKのうたのおにいさん風に始まるが、途中からハードロックサウンドに変貌。オタクならどんなキャラにもなりきって歌えるということらしい。
歌には定評のあるきーやんの熱唱がすばらしい。

Metamorphose

D

女性向け息子育成シミュレーションゲーム『DEAR My SUN!!〜ムスコ★育成★狂騒曲〜』のキャラソン。
醜いものが大嫌いで、ドSのカリスマ美容師「吉良 雅伸(きら まさのぶ)」の曲を、前述のヒロCが歌う。
なぜ息子育成シミュレーションにドSなカリスマ美容師が出てくるのかわからないが、ダンサーを従えて紫のガウンで登場したヒロCのこのライブは、ファンの間で伝説になっているらしい。
妻によると、「ファンがヒロCに求める理想を体現した曲」だという。
キャラクターにあわせた耽美な歌詞が素敵で、間奏のセリフが秀逸。
「いいな 分かってるな
 お前のようなデスい女を美しく変身させられるのは
 僕だけだ」
ここを聴くたびに、ファンの人と一緒に「キャー」ってなってしまう自分がいる。


##
無駄に長いゴールデンウィーク
生産的な活動に従事するのは止めにして、たまにはめくるめくキャラソンの世界に触れてみるのはどうだろうか。

直島の写真2 ウォルター・デ・マリア Seen/Unseen Known/Unknown


RIMG0140

海岸からベネッセミュージアムに上がる階段の側面に、コンクリートをくり抜いたような部屋があり、直径2メートルほどの黒い球体が二つ並んでいる。
2つの美しい御影石はその球面に、四角に区切られた風景やコンクリートが反射した光を映している。


RIMG0145


二つの球は、過剰に感情移入すると景色を眺める大きな眼球のようでかわいらしくもあるが、出来の悪い昔のCGを見ているような気がしないでもない。
幾何学的な物体や空間を現実世界に配置してみせるやり方は、非日常的で不思議な感覚を呼び起こすのはあるのだけれど、PCの画面に馴染みすぎた世の中では、やや陳腐化して見えるのような気がする。


いつかこの球達が、田舎の海を見続けることに飽きたのか、見飽きられたのを恥じたのか、寄り添うようにごろごろと展示室を出て、階段を転がり、海に帰るようすを想像した。